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おっきいなあ

作:高本 霧

身長が止まった。まだ、たったの 157 cmしかないのに、止まった。
「はあ」
どうしてだろう。嫌いな牛乳も我慢して毎日飲んでいたのに。
「ため息ばっかりつかないの、身体測定だけのことで」
「私には重要なの」
「そんなため息聞いてたらこっちまで暗くなるわ。そうだ、久しぶりに一緒に買い物でも行かない?」
「気分じゃない」
「気分じゃなくても行くの」
楽しみだわ~、わざとらしく鼻歌を歌いながらルンルンと立ち上がったママを睨みつける。
勝手なんだから。そもそも私の身長が伸びないのはたぶんママの遺伝だ。母親が背の高い人だと子供はだいたいみんな背が高くなると聞く。
はあ。
遺伝だったら、どうしようもないじゃないか。

「おっきいなあ」
名駅のゲートタワーで買い物をした後、ナナちゃん人形の前まで来てママが言った。
「あんたがこれ見てモデルになるって言った時は子供の戯言かと思ってたけど、まさか本気だったとわね」
私がはじめてナナちゃん人形を見たのはたしか 7 歳の時で、その大きさと長い手足に魅了された私は
「ねえママ、ナナちゃん見に行きたい」
と何度もねだった。
ナナちゃん人形は私が行くたびに違う衣装を身にまとい、何度見に行っても飽きることがなかった。
「ナナちゃんは名古屋で一番有名なモデルさんなんだよ」
その時からだ。私の夢がモデルになったのは。
160 cmになったらオーディションに応募すると決めていた。なのにもう 1 年間、私の身長はちっとも変わらない。
「ねえ」
ママが私の耳元にそっとささやく。
「なに」
「私はね、こうやっていろんな衣装を着てたくさんの人に見られてるナナちゃんも立派だと思うけど、ナナちゃんやナナちゃんの着ている衣装を作った人のこともすごいと思うのよねえ」
考えたこともなかった。
ママがはっとしたような私の目を見て、にやりと笑う。
「あなたにはまだ見えていない世界がたくさんあるのよ」

おっきいなあ