ばれんように
「唐揚げ、手羽先。みたらしだんごにタピオカミルクティー」
呟きながら歩いていた青年の鼻がぴくぴくと膨らんだ。あたりの匂いを嗅いで、ぺろりと舌なめずりをする。瞳孔が細長く開く。平日のお昼前の仁王門通りは、まだ人通りがそれほど多くない。
「いっそのこと、洋食屋でハヤシライスもいいかもなぁ」
「ひげ」
青年が耳元の声にびっくりする。アロハシャツを着こなした金髪のにいちゃんがポケットに手をつっこんでにやにやしながら傍に立っていた。
「ひげが出てるぞ」
にいちゃんは右手をポケットから出すと、指を自分の頬のあたりでひらひらさせる。青年が慌てて頬を触る。長くて丈夫でなひげが何本も飛び出ていた。目を白黒させながら両の手のひらで押し戻す。
「ありがと」
青年が金髪のにいちゃんにお礼を言った。にいちゃんが笑った。
「左手が『招いて』る」
青年が慌ててこめかみの隣につけた左手を下ろす。
「ま、お互いばれんうちに帰ろまい」
にいちゃんはまたポケットに手を突っ込むと、くるりと背中を向けた。歩き始めると、近くにいたもう一人のアロハシャツのにいちゃんが後を追いかけていった。やっぱり、金髪だ。
二人を見送りながら青年がお尻をなでた。尻尾は出ていない。
「よかった。ばれんで」
小さい声で言って歩き出した。
「今日は金鯱さんも来とるね」
買い物袋を下げた母親に手を引かれながら女の子がいった。
「うん。仲ええね」
「広場の招き猫さんは、何食べるんかな」
「ハヤシライスじゃない? よく見かけるし」
「あ。こっち来る。挨拶していい?」
「しーっ」
母親が唇に人差し指をあてた。青年が軽く会釈して通り過ぎていく。小さな、小さな声で母親が女の子にささやいた。
「そっとしとかないかんよ。みんな気づいてるって、ばれんようにね」