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夏の終わり

作:東歩

「ここが、大須商店街? 」
 夏の蒸し暑さを感じながら歩く万松寺通。ぼくの隣で榊さんが大きな目を輝かせている。
 感触は悪くない。チャンスだ。これは彼女にするチャンス。
「わぁ! 唐揚げ屋さんがある! 服屋さんも多いね。中条くん、ここにはよく来るの?」
「まあ、ここはぼくの庭みたいなもんだから」
 余裕を見せつつちらりと横の彼女を盗み見る。
 小柄で愛らしい榊さんとは大学のサークルで知り合った。聞けば大学入学と同時に初めて名古屋に来たという。
 中高一貫男子校にいたぼくは、女の子の扱いには慣れていない。しかし、リサーチには自信がある。密かに榊さんの好みをリサーチし考え出したこのデートコース。彼女は気取らない性格で食べることが大好き。それならここ、大須商店街だ。
 大きな鶏の丸焼きが並ぶブラジル料理店やフォーとバンミーが気軽に食べられるベトナム料理店など、異国情緒あふれる店が多い東仁王門通。
 新天地通はぼーっと歩いていると思わぬところにお寺が出現する。
 車道の大須本通と門前町通、赤門通にはあまり興味が引かれないかもしれないが、大須観音通と仁王門通は食べ物店が多いうえに通りの先には大須観音があって、ちょっとした縁日の気分になれるからもっとテンションが上がるだろう。
 いたるところで見かけるのは唐揚げ店や果物が入ったスイーツ店、ふわりとした綿雪のような台湾かき氷店だ。
「わたし、かき氷買うからちょっと待って」
「ぼくがおごるよ」
「ありがとう!」と喜ぶ榊さんに笑みを返しながら、中条リサーチに死角なし! と心の中でガッツポーズをしたそのとき。
「いいね、ここ。今度、彼氏をつれてこよっと」
 そのことばにぼくは一瞬で凍り付き、尋ねた。
「あの......榊さん、彼氏いるの?」
「うん、高校からね。遠距離だけど、時々来てくれるの」
 初歩的なリサーチ不足......。
 目を輝かせながらかき氷を口に含む榊さんの隣で、彼女をつくるというぼくの野望は淡く儚く溶けた。

夏の終わり