大須に、雨が降り出した
待ち合わせはいつもの、仁王門通の東端にある。赤い提灯の下。
ここで、いつものようにオレはエリコがやって来るのを楽しみにしていた。最近はほぼ毎週日曜日に、エリコと会えるから嬉しい。
ふと、アーケードの端から空を見上げる。
珍しく、今日は雨が降っていない。
どういう訳か、エリコとデートする日は、雨が多いのだが、今日は珍しく晴れている。
雨降りのデートが多いせいか、オレは雨が降るとエリコのことで頭がいっぱいになるし、エリコのことを想うといつも空を見上げてしまうようになった。
雨もまんざら、悪いものではない。ただ、オレは体が濡れたくないから、エリコとのデートはいつも、大須の商店街を一緒に歩くことにしている。ここはオレの地元でもある。
辺りには、みたらし団子を焼くいい匂いが漂っていた。
この角にあるみたらし団子の店はいつも人気で、今日も行列ができている。
来た!
空腹を我慢して待っていたら、エリコの歩く姿が見えた。今日は青いスカートをはいていて、とびきり似合っている。
嬉しくて、オレはつい走って駆け寄る。すると、エリコは笑顔でオレの頬や頭を撫でた。
おいおい、オレはいい年の男だぜ。子ども扱いはやめてほしいものだ。
いつものように商店街を一緒に歩いていると、この日、エリコは思い詰めたような表情になってオレに語りかけてきた。
「ねえ、話があるの。いいかな?」
もちろん、嫌な訳ないさ。
「色々あなたのことを考えたんだけど、......もし、よかったら、私のアパートで一緒に暮らさない?」
え? まさかの女子からのプロポーズか?
嬉しい。嬉しすぎるよ。キミと雨じゃない日も一緒にいられるなんて夢のようだ。
オレは頷くと、エリコは、「おいで」とオレを抱きしめて持ち上げた。
ありがとう。
オレは、ネコに生まれてきてよかったよ。
ふと、エリコの腕の中から、空を見上げる。
すると、さっきまで晴れていたのに、涙を流すように大須に雨が降り出した。
