文乃さんの好きなこと
天気のいい日曜日の朝、文乃さんは地下鉄に乗って栄にお出かけをする。そしてテレビ塔がよく見えるベンチに座り本を開く。これが彼女にとって至福の時間。文学少女に見える文乃さんなのだが愛読書は『竜馬がゆく』。実は幕末が大好きな「歴女」でもある。薩長土肥の志士たちが幕府を倒すために命をかけて戦うところに胸が熱くなるというのだ。
文乃さんは他にも好きなことがある。それはテレビ塔のそばにある小さな本屋にいくこと。なぜならその本屋には文乃さんが好きな歴史の本がたくさん並んでいるから。それを眺めているだけで文乃さんは幸せを感じるのである。そしてもう一つ、そのお店には気になる男性店員もいる。その人はいまどきのイケメンというよりも、まさにサムライといった風貌。以前から文乃さんはその男性と話しをしてみたいとずっと想いを募らせていた。
ある日、文乃さんは本を買うとき、その男性に清水の舞台から飛び降りるような気持ちで想いを伝えた。すると、
「いいですよ。名古屋城にでも行きますか。近いですし」あっさりOKだった。
翌週、二人だけで名古屋城を訪れた。まずは雰囲気が大事だろうと二人とも着物姿。まさにお似合いのカップルだ。特に男性は着物がよく似合っていた。
その時、文乃さんは彼の名前をちゃんときいていないことに気がついた。お店では「若さま」とか「ヨシさん」とか呼ばれているのは知っていた。
「あの、私は本田文乃といいます。お名前を聞いてもいいですか」
文乃さんは頬を真っ赤にしながら聞いてみた。
「あ、そうでしたね」
彼は懐をゴソゴソとさがして名刺をサッと出した。その名刺には「徳川義信」と大きく書かれ、
金色の家紋が入っていた。