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金賞

約束

作:加藤大樹

白い息で両手をあたためて、コートのポケットからスマートフォンを取り出す。約束の時間まであと5分ほど。ランチの時間にはまだ少し早いため、広場に人はまばらで、おだやかな時間が流れている。遠くに見えるタワーを見上げると雲間から太陽が顔を出し、あたたかな光に目を細めた。噴水から勢いよく飛び出す水が冬の日差しをキラキラと跳ね返し、その向こうにタワーが堂々と見える景色に懐かしい既視感を覚えた。

そろそろ発信ボタンを押そうかと画面に指をかけると、手の中でヴヴヴとスマートフォンが震えた。
「もしもし」
「少し早かった? もう着いてる? 」
「ああ、ちょうど僕も今かけようかと思ってたところだった」
「よかった。今はどのあたり? 噴水が見える? 」
「うん、よく見えるよ。あいかわらず勢いよくがんばってる。そっちは?」
「いつも通りだよ。噴水の向こうにタワーが見える。もうすぐライトアップが
はじまるからきっときれいね」

しばらくの沈黙の間、二人は目を閉じ、電話の向こうから聞こえる噴水の音に耳をすまし、おたがいが見ている景色を想像した。
彼女が先に口を開いた。

「そっちのタワーはきっともっと大きいでしょうね」
「君の今見てる風景とそんなに変わらないよ。希望の広場から見えるテレ
ビ塔が懐かしい」
「クリスマスまでもうちょっとだね。そのころにはここで一緒にイルミネー
ションを見られるのを楽しみにしてる」
「ああ、今年はきっと一緒に見よう」

彼はトロカデロ広場からエッフェル塔を眺めながら、遠く離れた恋人に約束をした。

約束