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直進

作:村田選手

物件の見学に行った帰りの車の中で、ミサトが言った。私はあれと喋った
ことがある。と、まっすぐ遠くを指さしながら。
誰にも言ってないんだけどね。小学二年生の家族旅行の時で、私は後部
座席に乗ってて、姉は隣でぐっすり寝ていて、私は窓を開けて顔を出して
た。すると、あれがこっちをじっと見てきて、私は何でこっちをじっと見てる
の? って心の中で呟いたの。そしたら、「見てないし。」って言うわけ。いや、
直接言ってきたわけじゃなくてテレパシーみたいな。嘘、なにこれ。って言
ったら、「シー、声を出すなよ」って。それでね、まっすぐあれに近づいてっ
たの、父の運転する車が。それで、私たちの家族旅行先っていうのがあれ
の中だったってわけ。私は旅行だって言うのに行き先を知らなくて。うん、
そしたら「僕の内側はけっこうすごいぞ」って。私が、外は?ってきいたの。
そしたら「外側なんてただの銀の丸だろ。名前もないし、すごいことなんて
何もないんだ。僕にはなんにもない。」急にしゅん、とした声になるから私
はびっくりしてどうにか励まそうとして、じゃあ、名前つけてあげるよ。ピン
太郎は? 頭をフル回転させて思い浮かんだのがピン太郎だった。「ピン
太郎?だっさー、笑っちゃうね。」そう言いながら、ピン太郎は笑った。ずっ
とくすくす笑ってて、それから小さな声でありがとうって。
また、ピン太郎と喋りたいんだけどそのまままっすぐ進んでくれない?  
ミサトが言った。
僕は頷いて指示器を消した。

直進

作品の短評

オケ太郎

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